塾長の独り言 -
優子-2
令和2年11月1日
あれから、何年経っただろうか。
その間、優子には何回かこちらからメールはしたものの返信は一度もなかった。
その後、返信のない一方的なメールの中身は一般的なものになり、やがて一年に一度の誕生日の
お祝いのメールだけになり、近年それさえもいつの間にか無くなっていた。
優子は現在関西の方にいて、もうすでに結婚しており、子供も二人いることも知ってはいた。
ふとしたことで、親類の法事があり彼女も帰省するとの話を誰からともなく聞いた。
それを聞いて、忘れかけていたあの頃の優子の面影が鮮明に浮かんできて、胸が締め付けられる
程の痛みを感じた。
意を決して、メールでなく電話をした。幸い以前の番号と同じで受信拒否もされてなかった。
意外とすんなり電話に出たことにびっくりした。これまでメールの返事が一回もこなかったのが
不思議だ。
「今度、法事には帰省するの?」
「そのつもりよ、どうして」
何故に、法事があることを知っているのかとの質問もなかった。
平然とした事務的な声に、期待が裏切られ若干の寂しさはあったが、当たり前だと理解した。
未練がましい男の性と、現実的な女の性の決定的な違いなのだ。
「どこかで、いつか会えないかな」
「いいよ」
「その内に、また電話するから」
いまさら会ってどうするつもりか。何を話すつもりか、昔の話をしてどうなるものか。
若いころのあの時の情愛がなぜ突然消え失せたのか、あの時は口には出せていなかったこと、
あの時の自分の思い、そして優子がどう思っていたのか、悶々とした心の整理をしたかった。
「うん、またね」
数日内に会えることが決まると、会えることへの安心なのか、何故か妙に胸の高ぶりは
消えていった。
あれから、もう30年は過ぎているだろうか。
・・・・・・