塾長の独り言 -
梅雨のバス停

平成25年6月15日
駅の構内を肩が触れ合う距離で並んで急いでいた。
時々、触れ合う手がわずかに汗ばんでいた。
今、夕方の5時半。
まだ、5時40分のバスには間に合う。
『もう無理だよ、次のバスにしたら・・』
『そうだね、でも帰ったら忙しいのよ』
間に合うのはわかっていた筈なのに、次のにしてくれた。
別れる時間が遅くなったのに、会話もなく黙って、時間だけが過ぎていく。
バスが来た。
咄嗟に握った手がわずかに震えていた。
あの人は振り向かずバスに乗り込み、向こう側のシートに座った。
向こう側の窓の外を見ていた。
バスが出るまでじっと待って見送った。
あの人は最後まで振り向くことはなかった。
バスは異常に明るい出発のアナウンスを残して出て行った。
『また会おうね』お互いに約束した言葉だけが頼り。
もう今はバスの影はない。
胸が締め付けられそうな切なさで、梅雨の八重洲のバス停を後にした。